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昇給・昇格・昇進の違い|連動しない場合の制度設計まで解説

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「昇格と昇進を同じ意味で使っている」「昇格したのに給与が上がらないと社員から言われた」「頑張りに応じた昇給の明確な基準がない」——人事制度の運用において、多くの経営者や人事担当者がこの3つの言葉の使い分けに迷いを抱えています。

昇給・昇格・昇進は、何が上がるのかがそれぞれ異なります。上がるのは、昇給は「給与」、昇格は「等級」、昇進は「役職」が上がることを指します。ここが曖昧なまま辞令を出したり社員に説明したりすると、期待していた処遇との差が生まれ、制度そのものへの不信につながります。

実際、評価結果がどのように給与へ反映されるかという「反映ルール」が不明瞭なために、評価に納得していない社員は約4割を占めているというデータもあります。

本記事では、3つの用語の定義と使い分けから、昇給の3つの種類、等級制度の型によって変わる昇格の意味、そして「昇格したのに給与が上がらない」が起きる制度上の原因までを、実務的な解決策とともに分かりやすく解説します。

昇給・昇格・昇進の定義を整理する

昇給・昇格・昇進は、それぞれ「何が上がるのか」が異なります。一つひとつ定義を解説していきます。

昇給・昇格・昇進それぞれの意味と範囲

3つの用語は、上がる対象と、その根拠となる制度が異なります。

用語

上がるもの

根拠となる制度

給与への影響

対になる言葉

昇給

基本給

報酬制度

直接的に上がる

降給

昇格

等級

等級制度

給与レンジが変わり、多くの場合上がる

降格

昇進

役職

役職・組織上の任命

役職手当が付く場合に上がる

降職

昇給は、基本給が上がることを指します。賞与や残業手当が増えることは、基本給そのものが変わっていないため昇給には含まれません。

昇格は、等級制度上の等級が上がることを指します。等級は社員の能力や役割のレベルを段階で定義したもので、報酬や評価の土台になります。等級が上がれば、その等級に対応する給与レンジも上がるのが一般的です。

昇進は、係長・課長・部長といった役職が上がることを指します。役職は組織上のポジションであり、部下の人数や職務の範囲が変わります。一般社員から主任、係長、課長、部長へと上がっていく階段をイメージすると分かりやすいでしょう。

なお、公務員では「昇任」という語が使われます。民間企業でいう昇進にあたる任用上の用語です。また、それぞれの逆の動きとして、降給・降格・降職があります。

とくに降格は等級が下がることを意味し、自社の等級制度が何を基準に等級を決めているかによって起こりやすさが変わります。ただし、降格はペナルティではなく、あくまで「育成前提」のもとで極力発生させないセーフティーネットとして設計・運用されるべきです。

3つの用語が混同されやすい理由と社内説明への影響

この3つが混同されやすいのは、多くの企業で等級と役職が一体で運用されているためです。「課長になる」ことが「4等級に上がる」ことと同義になっている企業では、昇格と昇進を区別する必要が実務上なく、言葉としても混ざっていきます。

しかし、混同したまま運用を続けると、社員とのコミュニケーションで問題が生じます。たとえば辞令で「昇格」と伝えられた社員が役職への任命を期待していた場合、実際には等級だけが上がったことに落胆します。

逆に「昇進」と伝えたのに基本給が変わらなければ、「なぜ責任だけ増えて給与が変わらないのか」という不満につながります。

こうした食い違いは、制度そのものへの不信に直結します。実際、評価に納得していない社員は約4割(41.4%)存在し、その多くが「評価の反映ルールが不明瞭であること」を理由にあげています(出典:FirstHR「人事評価の納得感調査」)。

何が上がって何が上がらないのかを、人事担当者自身が正確に説明できる状態にしておくことが、納得感の前提になります。

昇給の種類と人事制度上の位置づけ

昇給は一種類ではありません。何をきっかけに上がるかによって、定期昇給・ベースアップ・査定昇給に分けられます。制度設計の中心になるのは査定昇給です。

定期昇給・ベースアップ・査定昇給の違い

厚生労働省の定義では、ベースアップは「賃金表の改定により賃金水準を引き上げること」定期昇給は「あらかじめ労働協約、就業規則等で定められた制度に従って行われる昇給」とされています(出典:厚生労働省「令和7年賃金引上げ等の実態に関する調査」)。

前者は賃金表そのものを書き換える全社的な引き上げ、後者は定められたルールに沿って個人ごとに行われる昇給です。

種類

何をきっかけに上がるか

対象

定期昇給

あらかじめ定められた制度に従い、一定の時期に実施

制度の対象となる社員

ベースアップ

賃金表そのものの水準を引き上げる

原則として全社員

査定昇給

人事評価の結果に応じて実施

評価に応じて個人ごとに異なる

ここで注意したいのが、定期昇給は年功による自動昇給だけを指すのではないという点です。同じ調査の定義では、定期昇給には「年齢、勤続年数による自動昇給のほかに、能力、業績評価に基づく昇給」も含まれます。

実際、定期昇給制度がある企業は約8割(81.2%)を占めていますが、その内容は約3割(27.5%)が自動昇給であるのに対し、7割超(72.4%)は業績評価などによるものです。定期昇給を年功序列と同じ意味で説明している解説も見られますが、実態とは異なります。

また、ベースアップは昇給の一種です。昇給に含まれないのは、基本給が変わらない賞与や残業手当の増加のほうであり、この2つを取り違えないようにします。

査定昇給が制度設計の中心に置かれる理由

3種類のうち、人事制度の設計で中心になるのは査定昇給です。定期昇給の枠組みやベースアップの実施は経営判断で決まる部分が大きいのに対し、査定昇給は評価制度と直接つながっており、社員の行動を変える力を持つためです。

査定昇給を設計するときの原則は、行動評価は基本給の昇給に、成果評価は賞与に反映するという切り分けです。行動評価は再現性のある働き方を測るもので、身についた行動は翌年以降も継続するため、毎月積み上がる基本給に反映するのが自然です。

ただし実務においては、評価者が本人の「短期的な業績」に引きずられて行動評価をつけてしまわないよう、評価者間の目線合わせや訓練を継続して行い、評価のブレを防ぐ運用努力が重要です。

一方の成果評価はその期の結果を測るものであり、変動する成果を基本給に乗せると、翌年に成果が落ちても給与を下げづらくなり、その結果、総人件費が硬直化してしまう可能性があります。

この切り分けと、評価結果をいくらの昇給額に変換するかというルールは、一度作れば毎年使えるものです。ただし、自社の評価の出方と昇給額の関係が適切かどうかは、実際に社員を当てはめて試算しないと判断がつきません。

初めて設計する場合は、初回だけ専門家に伴走してもらって変換ルールを検証し、翌年以降は自社で見直せる状態にしておくと、運用初年度からの手戻りを防げます。

昇格の意味は等級制度の型によって変わる

昇格が何を意味するかは、自社の等級制度が何を基準に等級を決めているかによって変わります。同じ「昇格」でも、能力が認められたのか、担当する仕事が変わったのかで意味が違います。

職能資格・職務等級・役割等級における昇格の違い

等級制度は、等級を決める基準によって大きく3つに分かれます。それぞれで昇格の意味も、降格の起こりやすさも変わります。

等級制度の型

等級を決める基準

昇格が意味すること

降格の起こりやすさ

職能資格制度

社員の能力・経験

能力が一段上のレベルに達した

低い

職務等級制度

職務の内容・難易度

より価値の高い職務に就いた

職務が変われば起こる

役割等級制度

担う役割・責任の大きさ

担う役割が大きくなった

役割が縮小すれば起こる

職能資格制度では、昇格は「能力が伸びたこと」を意味します。能力は人に紐づき、いったん身につけたものは失われないと考えるため、降格は起こりにくい制度です。その一方で、担当する仕事が変わらないまま等級だけが上がっていくと、貢献と処遇が合わなくなり、人件費が膨らみやすくなります。

職務等級制度では、昇格は「より価値の高い職務に就いたこと」を意味します。人ではなく仕事に値付けをするため、異動によって職務が変われば等級も変わります。

役割等級制度では、昇格は「担う役割が大きくなったこと」を意味します。職能資格制度と職務等級制度の中間に位置し、組織の変化に合わせて役割を柔軟に定義しながら、貢献と処遇を一致させることを狙う制度です。

ただし、担う役割が縮小すれば降格もあり得るからこそ、実際の運用ではペナルティではなく、あくまで「育成前提のもとで極力発生させないセーフティネット」として設計することが大切です。

自社がどの型を採用しているかによって、社員への説明の仕方も変わります。職能資格制度で「役割が大きくなったから昇格」と説明すると、制度の建て付けと説明が食い違います。

マネジメント昇格とスペシャリスト昇格の設計上の差異

等級の階段を、全社員が一本で上がる形にするか、途中から複数のコースに分けるかも設計上の論点です。実務上は「垂直型」か「分岐型」のほぼ二択に整理でき、分岐型はマネジメントコースとスペシャリストコースに分かれる形がほとんどです。

マネジメント昇格では、部下を持ち組織を率いる役割に移ります。この昇格は、他の昇格とは性質が異なるため、判断の仕方も変える必要があります。行動評価の各項目を点数化し、満点の85%程度を昇格の目安としたうえで、点数に加えて別途の昇格審査を設けるのが一つの型です。

管理職への昇格を慎重に扱うのは、責任の性質が変わるためです。労働基準法上の管理監督者に該当する場合、労働時間・休憩・休日に関する規定が適用されなくなります。

ただし管理監督者かどうかは役職名ではなく実態で判断されるものであり、役職名を付ければ自動的に該当するわけではありません(出典:大阪労働局「管理監督者の範囲」)。

スペシャリスト昇格では、専門性の高度化によって等級が上がります。この設計があることで、専門職が「管理職にならないと処遇が上がらない」状態から解放されます。

ただしコースごとに期待役割と昇格基準を用意する必要があるため、運用は複雑になります。まずは垂直型で始め、専門職を高く処遇する必要が明確になった段階で分岐を検討する順序で十分です。

昇給と昇格の連動設計:つながる場合・つながらない場合

昇格と昇給は、必ずしも1対1で連動するわけではありません。どういう場合につながり、どういう場合につながらないのかを設計段階で決めておかないと、社員の不満が生まれやすくなります。

昇格と昇給が連動する基本ロジック

昇格と昇給がつながる基本の形は、等級が上がると、その等級に対応する給与レンジが上がるという構造です。各等級には給与の下限と上限が設定されており、上位の等級に移ればレンジ全体が上の水準に移ります。この移動によって生じる昇給が昇格昇給です。

昇給にはもう一つ、等級はそのままで評価に応じて給与レンジの中を上がっていく等級内昇給があります。この2つを分けて設計しておくと、「評価を高く取り続ければ等級の中で昇給し、役割が一段上がれば昇格昇給でさらに上がる」という道筋を社員に示せます。

昇格は担う役割が一段上がることを意味するため、昇格昇給には等級内昇給よりも大きな幅を設けるのが一般的です。

「昇格したのに給与が上がらない」が起きる制度設計上の原因

社員から最も出やすい不満が、昇格したのに給与がほとんど変わらないというものです。これは制度の不備ではなく、設計上の構造から生じている場合がほとんどです。原因は主に3つに整理できます。

原因1:給与レンジの重なり

隣り合う等級の給与レンジを一部重ねる設計にしている場合、昇格しても基本給が上がりにくくなります。この重なりは、「昇格しなくても評価次第で昇給できる余地」を残すために必要な設計です。

しかし、下位等級で高い評価を取り続けて上限近くまで基本給が上がっていた社員は、昇格しても既に上位等級のレンジ内にいるため、昇格による昇給幅が小さくなります。

制度としては正しく機能していますが、社員の実感としては「昇格したのに給与が上がらなかった」と感じやすくなります。

原因2:昇格昇給と等級内昇給の重複調整

2つ目の原因は、同じ期に発生する「昇格による昇給」と「通常評価による昇給」の重複調整です。等級が上がることで基本給が上がる「昇格に伴う昇給」と、その期の良好な評価によって現在の等級内で基本給が上がる「通常の昇給」が同時に発生した際、これらを単純に足し合わせて支給すると、一気に給与が上がり人件費を圧迫します。そのため、多くの企業では「昇格した期は通常の評価昇給は行わず、昇格に伴う昇給のみを適用する」といった重複防止の調整ルールを設けています。しかし、このルールの存在が事前に説明されていないと、社員には「昇格したのに、本来もらえるはずの通常の評価昇給がカットされた」と捉えられ、不満を抱く原因になります。

原因3:昇進と昇格の混同

役職だけが上がって等級は据え置きという場合、基本給は変わりません。役職手当が付けば支給総額は増えますが、基本給そのものは動かないため、「昇進したのに昇給していない」という受け止めになります。

さらに管理職への昇進では、いわゆる「管理監督者」になることで労働時間の規定が適用されなくなり残業代が出なくなるため、支給総額が思ったほど増えない、あるいは逆に下がってしまうといった現象が起こることがあります。

いずれの原因も、設計時に社員へ説明できるようにしておけば不満にはなりません。問題は構造そのものではなく、構造が説明されていないことにあります。

とくに給与レンジの重なり幅をどの程度にするかは、昇格の動機づけと人件費の両方に影響する判断であり、設計経験がないと適切な幅を決めるのが難しい部分です。

初回は専門家に伴走してもらって設計の考え方を身につけ、2回目以降の改定から内製化していく進め方であれば、自社に判断の型を残せます。

昇給しても昇格しないケースの制度的な意味

逆に、昇給はしたが昇格はしていないという状態もあります。これは等級内昇給が行われた場合で、「今の等級に期待される役割の中で、評価が上がった」ことを意味します。等級が変わっていない以上、担う役割の大きさは同じであり、制度上は正常な状態です。

注意したいのは、等級内昇給を続けた社員が給与レンジの上限に達したときです。上限に達すると、評価が高くてもそれ以上は昇給しません。この状態は、その社員が次の等級に上がる時期に来ているというサインでもあります。

上限に達した社員を放置すると、評価は高いのに処遇が動かない状態が続き、意欲の低下や離職につながります。こうした事態を防ぐためには、等級の上限に達した社員をどう扱うかというルールを、あらかじめ決めておく必要があります。

昇格の要件を満たしているなら昇格させ、満たしていないなら何が足りないのかを本人に伝える。この運用ができて初めて、等級制度と報酬制度が連動している状態になります。

制度の設計と運用を社内に経験者がいない状態で進めるのは負荷が大きいため、初回は専門家に伴走してもらって運用の型を学び、2回目以降の改定から内製化を目指すのが現実的な進め方です。

まとめ

昇給・昇格・昇進の3つは、根拠となる制度も上がる対象も異なる全く別の概念です。本記事の要点を整理します。

  • 3つの用語の区別
    昇給は基本給、昇格は等級、昇進は役職が上がることを指し、それぞれ報酬制度・等級制度・組織上の任命を根拠とする
  • 昇給の種類と性質
    予め定められた定期昇給、賃金表全体を底上げするベースアップ、評価に応じて行う査定昇給があり、制度設計の核となるのは査定昇給である
  • 昇格の定義の可変性
    自社が採用する等級制度(職能・職務・役割)の型によって、昇格の持つ意味は異なり、それに伴って降格の起こりやすさや運用のスタンスも変化する
  • 給与が連動しない原因
    給与レンジの重複設計、昇格昇給と等級内昇給の重複調整、昇進と昇格の混同という3つの構造的な原因が「昇格したのに給与が上がらない」を引き起こす
  • 説明できる状態づくり
    制度の構造そのものより、ルールが社員に開示・説明されていないことが不満を生むため、設計段階から社員への論理的な説明ロジックを用意しておく

昇給と昇格の設計は、どれほど精緻な制度を構築したかではなく、現場の「評価スキル」が向上し、公平な運用が定着して、社員が「何が上がり、何が上がらないのか」に納得した時に初めて機能します。

まずは自社の等級制度と報酬制度がどう接続されているかに立ち返り、社員に説明できる状態になっているかを確認していきましょう。

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