人事評価の手順|目標設定から評価・フィードバックまでの流れを解説

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「期末になると評価作業に追われ、現場からは不満の声が上がる」「期初に目標を立てたはずなのに、期中は誰も見返していない」——人事評価の運用において、多くの経営者や人事担当者がこうした「人事評価の手順」に頭を悩ませています。
実際、期初に目標を設定したものの、期中や期末に十分なフィードバックや進捗確認が行われない、いわゆる「評価運用の形骸化」に陥っている企業は約4割(38.2%)に上っています。
本記事では、期初の目標設定から、期中の観察と月次面談、期末の評価とすり合わせ会議、そしてフィードバックと次期への連動まで、人事評価を通期のプロセスとして回すための実践的な手順を解説します。
人事評価は「通期を通じたプロセス」
人事評価は、期末に評価シートを埋める作業ではありません。期初の目標設定から期末のフィードバックまで、通期を通じて連動する一連のプロセスです。まずは全体像から整理します。
人事評価の全体像と4つのステップ
人事評価の手順を考えるとき、最初に切り分けておきたいことがあります。それは、「評価制度そのものを作る手順」と、「作った制度で評価を運用する手順」は、まったく別物である点です。
前者は現状分析から評価項目の設計、報酬への反映ルールの整備までを指し、制度を新しく作るときや改定するときに一度だけ通る道です。これに対して後者は、完成した制度を使って毎年繰り返す運用のサイクルを指します。
この2つを混ぜたまま進めると、「制度は整えたのに現場で回らない」という状態に陥ります。評価とは本来、等級制度で定義された「期待役割」に応えているかを測り、その結果を報酬へ正しく接続する仕組みです。
必ず「等級→評価→報酬」という連動の土台があることを前提に、本記事では後者の「完成した評価制度を年間で運用する手順」を解説します。
評価を運用する手順は、次の4つのステップで構成されます。
ステップ | 時期 | 中心になる人 | この工程のアウトプット |
|---|---|---|---|
Step.1 目標設定 | 期初 | 本人と上長 | 合意された成果目標・行動目標 |
Step.2 観察・指導・育成 | 期中(毎月) | 上長 | 月次面談の記録、発揮された行動の事実 |
Step.3 評価の実施 | 期末 | 評価者全員 | 目線を合わせた評価結果 |
Step.4 フィードバックと次期への連動 | 期末〜次期の期初 | 本人と上長 | 本人が納得した評価と、次期の目標 |
Step.1の目標設定は、「何を達成すれば評価されるのか」を期初に本人と合意する工程です。ここで曖昧なまま走り出すと、期末にどれだけ丁寧に評価しても、判断の基準が後から持ち出されたように見えてしまいます。
Step.2の観察・指導・育成は、4つの中で最も期間が長く、そして最も飛ばされやすい工程です。上長が日々の行動を観察し、月次の面談で進捗と行動を確認して、次の一手を一緒に決めていきます。
Step.3の評価の実施は、点数を付ける作業だと思われがちですが、実務上の中心は評価者間の目線合わせです。自己評価と上長評価を突き合わせ、評価者が集まって甘辛を調整します。
Step.4のフィードバックと次期への連動は、通期の締めくくりであると同時に、次の期の入口でもあります。評価結果を伝えて終わりにせず、そのまま次期の目標設定につなげることで、4つのステップが1周して循環します。
期末評価だけで完結させると失敗する理由
4つのステップのうち、期初の目標設定(Step.1)のあと期中の観察(Step.2)を飛ばして期末の評価・伝達(Step.3・Step.4)へ飛んでしまう運用をしている企業は少なくありません。
形式上は評価を行っているように見えますが、この「期中不在」の運用は、現場に強い不信感と歪みを生んでしまいます。
第一の問題は、評価される社員側の「納得感の低下」です。期初に目標設定をしたものの、期中に一切のフィードバックや関与がないまま期末を迎えると、社員は「日頃のプロセスを見ていないのに、結果だけを一方的に査定された」と受け止めてしまいます。
評価結果の妥当性を議論する以前に、評価プロセスそのものへの信頼が損なわれてしまうのです。
第二の問題は、評価者側の「判断根拠の欠如」です。半年~1年前の行動を記憶だけで振り返ろうとすると、直近の出来事や強く印象に残った事象だけに評価が引きずられてしまいます。
その結果、部下から理由を問われても具体的な行動事実を挙げて説明できなくなります。期末に評価者が苦しむ根本的な原因は、評価スキルの不足ではなく、期中に評価材料を収集・蓄積していない点にあります。
4つのステップが連動して初めて納得感が生まれる
人事評価における社員の納得感は、期末のフィードバック面談で伝え方をどれほど工夫しても生まれません。なぜなら社員の評価納得感は、「評価結果そのものへの納得」だけでなく、「どのような基準で、どんな行動事実に基づき判断されたかという過程への納得」という2つの要素から成り立っているからです。
期末に評価シートを埋めて結果だけを伝達する運用は、前者の「結果納得」のみに依存している状態です。しかし、評価に至る根拠やプロセスが不透明なままでは、提示された点数の妥当性すら判断できず、社員には一方的な査定をされたという不信感や徒労感だけが残ってしまいます。
期初に「評価基準を相互合意し(Step.1)」、期中に「行動事実を観察・記録し(Step.2)」、期末に「目線を合わせて公平に判定し(Step.3)」、次期へ「成長課題を連動させる(Step.4)」。
これら4つのステップを通期の循環プロセスとして一本の線で繋ぐことこそが、結果の妥当性を補強する「過程への納得感」を積み上げ、人事評価制度に対する全社的な信頼を強固にする唯一のアプローチなのです。
Step.1 期初の目標設定
期初の目標設定は、その期に「何を達成すれば評価されるのか」を本人と合意する工程です。ここでの合意の質が、期末の納得感を大きく左右します。
会社目標と個人目標を連動させる
目標設定の出発点は、個人の希望ではなく会社の目標です。全社の事業目標を部門目標に分解し、部門目標をさらにチームやメンバー個人の目標へと落としていきます。
この流れをたどらずに個人の目標だけを立てると、一人ひとりは目標を達成しているのに全社の数字が未達という、ちぐはぐな状態が生まれます。
分解する際に不可欠なのが、目標と評価軸の一対一の連動です。成果目標は「成果評価」、行動目標は「行動評価」と明確に対応させます。目標の整理が曖昧なまま両者を混ぜてしまうと、評価結果が混同され、「行動は申し分ないのに成果が出なかった社員」や「数字は達成したが進め方に問題があった社員」をどう評価すればよいのか判断できなくなります。
目標設定の段階で、それぞれの目標がどちらの評価軸で測られるのかを明示しておくことが重要です。
なお、目標の数は絞り込みます。成果目標と行動目標を合わせて3〜5個が現実的な水準です。目標を増やせば増やすほど網羅的に測れるように思えますが、実際には一つひとつへの関与が薄まり、期中に誰も見返さない一覧表になります。
数を絞ることは、手を抜くことではなく、期中に確実に関われる状態をつくることです。
SMARTの法則と「少し難しい」目標難易度
目標の書き方でよく用いられるのが、SMARTと呼ばれる5つの観点です。曖昧な目標を、期末に判定できる形へ整えるための考え方として広く使われています。
観点 | 意味 | 確認する問い |
|---|---|---|
Specific(具体的) | 何をするのかが明確である | 読んだ人によって解釈が変わらないか |
Measurable(測定可能) | 達成したかどうかを判定できる | 期末に「できた/できなかった」を言えるか |
Achievable(達成可能) | 現実に手が届く水準である | 本人の等級と経験で到達しうるか |
Relevant(関連性) | 部門・全社の目標とつながっている | この達成が組織の何に貢献するか |
Time-bound(期限) | いつまでに行うかが決まっている | 期中のどの時点で中間確認するか |
SMARTを満たすだけでは、目標設定として十分とは言えません。あわせて精査すべきなのが、「目標の難易度」です。実務でよく見られるのは、期末の目標達成率が全員100%前後に揃ってしまうケースです。
一見すると順調に見えますが、これは社員が確実に達成できる低い水準に目標を設定してしまった結果であることが少なくありません。この状態を放置すると、評価の差がつかなくなり、社員の成長を促す機能や処遇への反映ルールが形骸化してしまいます。
そこで、目標は「今の実力で確実に届く水準」ではなく、「今のやり方の延長では届かないが、工夫と努力で手が届く水準」に置きます。本人が少し背伸びをする必要のある目標を置くことが、成長を後押しします。
ここで注意したいのは、心理的安全性の高い職場と、負荷をかけない職場は別物である点です。安心して意見を言える環境を保ちながら、期待水準は高く置く。この両立が、目標設定における上長の腕の見せどころになります。
目標設定面談ですり合わせを行う
目標を実務で機能させるには、上長が一方的に決めて本人に渡すものではなく、まず本人に目標案を書いてもらい、それを面談ですり合わせることが重要です。人は、与えられた目標よりも自分で決めた目標のほうが実行に向かいます。この自律性が、期中の主体的な行動を促します。
とはいえ、本人任せにするわけではありません。上長が握るのは水準と優先順位の2点です。本人が書いた案が組織の期待水準に届いていなければ、なぜその水準が必要なのかを説明したうえで引き上げます。
また、複数の目標が並んだときに、どれから手をつけるべきかを決めるのも上長の役割です。この2点さえ押さえておけば、目標の中身は本人の言葉のままで構いません。
面談の最後には、期末にどうなっていれば達成と判断するのかを、双方の言葉で確認します。ここを口頭の了解で済ませると、期末に「そういう意味だとは思っていなかった」というすれ違いが起こります。合意した内容は、その場で目標シートに書き切ります。
もっとも、期初のこの工程は、評価制度を導入した最初の1〜2年でつまずきやすい場面でもあります。上長によって目標の粒度や難易度がばらつき、期末になって初めて格差が表面化するためです。
そのため、まずはシンプルな最小構成から着手し、初回のサイクルは専門家に適宜伴走してもらいながら目標設定の型を全社で構築し、2回目以降の運用から徐々に内製化へ移行していく進め方が、現場の負担を最小限に抑えて定着させるうえで効果的です。
Step.2 期中の観察・指導・育成
期中は、4つのステップの中で最も長く、最も飛ばされやすい工程です。ここでの関与の量が、期末の納得感をほぼ決めます。
日々の観察と記録が評価の根拠になる
期中に上長が行うべき最大の役割は、メンバーの行動を継続的に観察し、客観的な事実として記録に残すことです。評価とは、期末に半年間の記憶を手繰り寄せて印象を綴る作業ではなく、期中に蓄積した具体的な行動事実を評価基準に照らし合わせて判定する作業だからです。記録がなければ、期末の評価シートは主観と直近の記憶だけで埋めるしかなくなります。
記録すべき対象は、評価項目に対応する具体的な行動事実です。「顧客からの問い合わせに対し、当日中に一次回答を返した」「後輩の相談に対し、判断基準を言語化して伝えた」など、日付と場面が特定できる事実を残します。
「頑張っている」「積極的だ」といった主観的な感想ではなく、第三者が読んでも同じ場面を思い浮かべられる具体性で書くことが大切です。高機能なシステムは不要で、目標シートへの追記やメモで十分運用できます。
この観察記録の蓄積こそが、期末評価の客観性と説得力を決定づけます。事実という明確な根拠に基づいて評価とフィードバックを行うことで、評価者のバイアスやブレが排除され、被評価者にも「自分の日々の工夫や行動プロセスを上司が見届けてくれている」という深い安心感と納得感が生まれるのです。
月次面談で「振り返り」と「ネクストアクション」を共有する
期中の振り返りを仕組みとして担保するのが、月に一度の面談です。実施の頻度は月1回・30分程度が現実的な水準で、四半期に一度では期中の軌道修正には間に合いません。この面談は、次の4つの流れで進めます。
第一に、成果目標の進捗を数字で確認します。目標に対して現在どこまで到達しているのか、残りの期間で届く見通しなのかを、感覚ではなく数値で共有します。ここが曖昧なまま進むと、期末になって初めて未達が判明してしまう恐れがあります。
第二に、行動目標について、本人にgood(よかった点)とmore(改善点)を振り返ってもらいます。ここで大切なのは、上長が先に指摘しないことです。本人の言葉で語ってもらうことで、どこまで自覚できているかが分かり、上長が伝えるべきことも絞り込めます。
そして第三に、次の1か月で何を変えるかというネクストアクションを、本人に決めてもらいます。上長が指示した行動よりも、本人が自分で決めた行動のほうが実行されます。自分で決めたことをやり切る経験の積み重ねが、指示を待たずに動ける自走力を育てます。
最後に、上長がその内容を承認し、記録に残します。承認は、基準に照らして良い点を認めるという意味であり、内発的な動機づけを支える要素になります。
この4つを毎月回している組織では、期末の評価面談は互いの認識にズレがないことを確認する場になり、社員が期末に評価結果を初めて知って困惑する「サプライズ評価」を未然に防ぐことができます。
評価者による面談の質のばらつきは、運用を始めた直後に直面しやすい課題です。まずは複雑なシートを作らず、この4項目を共通のフォーマットとして全社に展開・定着させます。月次面談で残した記録は、そのまま期末評価の客観的な根拠となるため、評価者の記憶に頼らない公平な評価が可能になります。
運用初期は専門家の伴走を活用して数か月間を並走し、管理職が面談の型を習得した段階で内製化へ移行する進め方が、現場に無理なく定着します。
期中の軌道修正と目標見直しの考え方
期の途中で状況が変わったとき、目標を見直してよいのかという問いは、実務で頻繁に生じます。結論から言えば、見直してよい場合と、見直すべきでない場合の線引きをあらかじめ決めておくことが必要です。
見直してよいのは、目標を立てた時点の前提そのものが変わった場合です。担当領域の変更、事業方針の転換、取引先の撤退といった、本人がコントロールできない外部要因がこれに当たります。
この場合は、変更後の状況に合わせて目標を再設定し、変更した経緯と日付を記録に残します。記録がないまま目標だけが書き換わると、期末に「いつの間にか基準が変わっていた」という不信につながります。
一方で、見直すべきでないのは、単に達成が難しくなった場合です。進捗が遅れているという理由で目標を下げてしまうと、目標は「達成できる水準まで下げるもの」になり、期初に難易度を設計した意味が失われます。
この場合に行うのは、目標の変更ではなく打ち手の変更です。残り期間で何を変えるかを面談で一緒に組み立て直します。
なお、期中に異動があったメンバーについては、異動前と異動後のそれぞれの職務での評価を、在籍期間で按分して合算する方法が実務的です。中途入社者についても、評価開始時点で在籍3か月以上を評価対象とするといった基準を、あらかじめ決めておきます。こうした例外の扱いを運用ルールとして先に定めておくことが、期末の個別判断を減らします。
Step.3 期末の評価実施
期末の評価は、点数を決める工程ではなく、評価者間で目線を合わせる工程です。誰が評価しても同じ結果になる状態をつくることが目的になります。
自己評価と上司評価のすり合わせ
期末はまず、本人による自己評価から始めます。自己評価を行う目的は、点数を折衷することではありません。本人の認識と上長の認識がどこでズレているかを、期末の早い段階で発見することにあります。
自己評価を集めたら、上長は自分の評価と突き合わせ、差が大きい項目に印を付けます。同じ行動を観察していても評価が分かれる理由は、評価基準の解釈が双方で異なるか、上長が把握していない行動事実が存在するかのいずれかです。
前者の場合は評価基準の丁寧な解説が必要であり、後者の場合は、本人から具体的な事実や経緯をヒアリングすることで、評価の精度を高めることができます。
ここで避けたいのは、自己評価が高い社員の点数を機械的に下げ、低い社員の点数を引き上げるといった安易に足して二で割る調整です。こうした運用を行うと、社員は査定で不利にならないよう自己評価を意図的に操作するようになり、自己評価そのものが形骸化します。
自己評価の本来の目的は、点数を擦り合わせることではなく、本人の自己認識と会社(上長)が求める期待役割との「認識のギャップ」を可視化し、面談での対話のきっかけにすることにあります。
評価すり合わせ会議(キャリブレーション)で甘辛を調整する
一次評価が出揃った段階で行うのが、評価すり合わせ会議です。上長ごとの評価基準の解釈の偏り・甘辛を放置したまま処遇へ反映させると、社員は制度ではなく「上司の当たり外れ」を見るようになります。評価者全員が部署を横断して集まり、評価の目線を揃えることが不可欠です。
誤解されやすいのですが、この会議は評価を一定の割合に当てはめる「相対評価」に強制変換する場ではありません。分布調整が目的化すると、期待基準を満たしている社員が定員の関係で低く評価され、絶対評価の前提が崩れてしまいます。
ここで調整すべきは点数の分布ではなく、「提示された行動事実が、本当にその等級の期待役割を満たしているか」という基準の解釈です。特に極端な高評価・低評価について「この行動は、この等級の期待水準を満たしているか」といった行動根拠を擦り合わせ、評価者ごとの甘辛のばらつき・バイアスを排除することこそが、すり合わせ会議の本来の目的です。
会議には評価者である管理職と人事、経営層が参加し、主観的な印象ではなく期中の観察記録を根拠として持ち寄ります。すり合わせ会議は運用の難易度が高く、初回は議論の相場観を掴みにくいため、専門家に期末評価サポートとして伴走してもらいながら進行の型を構築し、2期目以降に社内主導へと内製化していく進め方が最も現実的です。
評価者が陥りやすい人事評価エラーと防ぎ方
評価者は、意識していなくても一定の傾向に流されます。代表的なものが、次の7つの評価エラーです。
評価エラー | 起きること | 典型的な場面 |
|---|---|---|
ハロー効果 | 一つの目立つ長所や短所が、他の項目の評価まで引っ張る | 大型受注を決めた社員を、協調性まで高く評価する |
寛大化傾向 | 全体的に評価が甘くなる | 部下との関係を悪くしたくない上長が高めに付ける |
厳格化傾向 | 全体的に評価が辛くなる | 自分の基準に照らして「まだ足りない」と判断し続ける |
中央化傾向 | 評価が中央に集まり、差が出ない | 判断に迷った項目をすべて標準点で埋める |
論理的誤差 | 関連しそうな項目を、事実を見ずに同じ評価にする | 提案力が高い社員は交渉力も高いはずだと推測する |
対比誤差 | 評価基準ではなく、自分自身と比べて評価する | 自分が得意な業務に厳しく、苦手な業務に甘くなる |
期末誤差 | 直近の出来事が評価全体を左右する | 期末の1か月の成果だけで通期の評価を決める |
これらのエラーは、評価者の能力や性格の問題ではなく、人が判断するときに誰にでも起こる傾向です。したがって、「気をつけましょう」という呼びかけでは防げません。防ぐ手立ては、評価者の心構えではなく仕組みの側にあります。
防ぎ方は3つあります。第一に、評価基準を行動のレベルまで言語化することです。判断の拠りどころが言葉として存在しない項目ほど、評価者の印象が入り込みます。第二に、複数の評価者で目線を合わせることです。
一人の判断で完結させず、すり合わせ会議で他の評価者の目を通します。そして第三に、評価者研修を通じて、どのエラーが自分に起きやすいかを評価者自身が自覚することです。
なお、基準の言語化は、評価者のためだけの施策ではありません。自社の評価基準を理解していない社員は7割近く(68.0%)に上っています(出典:FirstHR調べ)。基準が言葉として存在し、それが全社に開示されている状態は、評価者のブレを抑えると同時に、被評価者が自分の評価を検証できる状態をつくります。
Step.4 評価結果のフィードバックと次期への連動
フィードバックは、評価結果を伝える場であると同時に、次期の目標設定の入口です。ここで通期のサイクルが1周します。
納得感を生むフィードバック面談の進め方
フィードバック面談で最も避けたいのは、点数だけを伝えて終わることです。実際、自社の制度に不満を感じている社員がその理由として最も多く挙げるのは、「フィードバックが不十分である」ことで、約4割(37.2%)を占めています(出典:FirstHR「社内制度の意識調査」)。社員が求めているのは評価の甘辛ではなく、なぜその評価になったのかの説明です。
面談は、事実・評価・理由・期待の順で進めます。まず、期中に記録した具体的な行動の事実を挙げます。次に、その事実が評価基準のどの水準に当たるのかを示します。そのうえで、なぜその判定になったのかを言葉にします。
最後に、次期に何を期待するのかを伝えます。この順序を守ると、評価は「上長の判断」ではなく「基準に照らした結果」として伝わります。逆に、評価から先に伝えると、その後の説明はすべて後付けの理由に聞こえます。
もう一つ、面談の場で明確に説明できるようにすべきなのが、評価結果が処遇に反映されるロジックです。実際、評価に不満を抱く社員の約4割(37.1%)が「評価が処遇にどう反映されるのかのルールが不明瞭であること」を理由に挙げています。(出典:FirstHR調べ)。
「行動評価は基本給の昇給に、成果評価は賞与にどう連動するのか」を明確なテーブルで提示できる状態にしておくことが、社員の不信感を防ぎ、納得感を醸成します。
評価結果は次期の目標設定につなげる
フィードバック面談は、その期の締めくくりであると同時に、次期の目標設定の材料が最も揃っている場でもあります。期末の評価と次期の目標設定を切り離して別々の面談で行うと、評価で挙がった課題が目標に反映されないまま、また新しい目標が立ちます。
実務的には、フィードバック面談の後半をそのまま次期の目標設定の導入に使います。今期の評価で水準に届かなかった項目のうち、次期に重点的に取り組むものを1〜2つ選び、それを次期の行動目標の候補として本人に持ち帰ってもらう形です。ここでも、決めるのは本人です。上長は、どの項目が次の等級に上がるうえで重要かという視点を示します。
さらに育成の観点を盛り込むには、フィードバック面談で確認した内容を「育成計画」へ落とし込み、次期の月次面談へ連動させます。組織の目指す方向性、本人の強み・課題、期待する役割、本人のキャリア像、そして現状とのギャップを単なる「給与決定の作業」で終わらせず、社員の成長を支援する育成ツールとして活用できるかどうかが、制度定着の大きな分かれ目となります。
手順を形骸化させないために押さえるべき運用の要点
人事評価制度は、企画2割・運用8割です。どれほど精緻な手順を設計しても、現場で運用し続けなければ意味がありません。最後に、手順が形骸化していないかを見分ける主なサインを整理します。
一つ目は、目標シートが期初と期末にしか開かれていない状態です。期中の記録が残っていなければ、月次面談は実施されていないか、実施されていても評価とつながっていません。
二つ目は、評価すり合わせ会議が報告の場になっている状態です。各評価者が自分の付けた点数を読み上げるだけで、他部署の評価に対する意見が出ないのであれば、目線合わせは行われていません。
三つ目は、フィードバック面談の時間が全員一律で極端に短い状態です。期中の観察事実が蓄積され、社員ごとに異なる課題や今後の期待役割について深い対話が行われていれば、面談の所要時間には自然と個人差が生じるはずだからです。
こうした形骸化を防ぐうえで有効なのは、手順を増やすことではなく減らすことです。運用が続かない制度の多くは、項目や面談の回数が現場の処理能力を超えています。評価項目は5個程度、面談は月1回30分、記録は目標シートへの追記。
この最小構成から始めて、回るようになってから精度を上げていくほうが、結果的に早く定着します。シンプル・イズ・ベストが、評価を定着させるための鉄則です。
そのうえで、初回のサイクルは専門家に伴走してもらいながら一度通しで回し、2回目以降の期から内製化に移行していく進め方であれば、制度を複雑にしすぎずに運用を根づかせられます。
期初目標設定サポート、中間評価サポート、期末評価サポート、評価者研修といった工程ごとの支援を組み合わせ、自社の評価スキルが育った工程から順に手を離していくことで、外部に依存し続けない自走力を養うことができます。
まとめ
人事評価の手順は、期末の査定作業ではなく、期初から次期へと循環する通期のプロセスです。本記事の要点を整理します。
- 2つの手順の切り分け
制度そのものを作る手順と、作った制度で評価を回す手順は別物であり、「等級→評価→報酬」の連動を前提に年間の運用サイクルを設計する。 - 通期の4ステップ
「期初の目標設定」「期中の観察・指導」「期末の評価実施」「フィードバックと次期への連動」という4つの工程を1周させて循環させる。 - 期初の目標設定
会社目標から分解した指標を「成果評価」と「行動評価」に一対一で連動させ、本人に案を書かせたうえで、上長が水準と優先順位の2点をすり合わせる。 - 期中の関与と面談
月1回30分の面談で、成果の進捗確認、行動の振り返り、本人が決めるネクストアクション、上長の承認と記録の4つを毎月積み上げる。 - 期末の評価と調整
自己評価とのギャップを対話のきっかけとして扱い、評価すり合わせ会議によって評価者ごとの基準の解釈を揃える。 - フィードバックの接続
「事実→評価→理由→期待」の順序で伝え、処遇への反映ルールを説明できる状態にしたうえで、そのまま次期の目標設定へとつなげる。
人事評価の手順は、立派な評価シートを完成させた時ではなく、現場の「評価スキル」が向上し、公平な運用が定着して、社員が「なぜこの評価なのか」に納得した時に初めて機能します。
まずは自社の目標設定と期中の関与の現状に立ち返り、今の自社で無理なく回せる人事評価のかたちを検討していきましょう。
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執筆者
FirstHR編集部
FirstHR編集部は、人事制度設計や評価運用をはじめとした人事領域に関する情報を発信しています。 実務に活かせる学びや考え方を大切にしながら、企業や人事担当者の皆さまに役立つコンテンツをお届けしています。


