人事評価に納得できない社員は約8割|「評価基準の曖昧さ」が引き起こす意欲低下と、組織がとるべき打ち手
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慢性的な人手不足が続くなか、多くの中小企業にとって「社員の定着」と「モチベーション維持」は経営の重要なテーマになっています。そうしたなか、日々の働きがいに直接影響する人事評価の仕組みをどう設計・運用するかが、あらためて問われています。
FirstHRでは、人事評価制度の運用実態と社員心理への影響を明らかにするため、正社員数10〜100名未満の中小企業に勤務する20〜59歳の正社員267名を対象にアンケート調査を実施しました。
本記事では調査結果に加え、FirstHR認定設計パートナーの知見から、評価が社員の成長を後押しする制度になるための設計・運用のポイントを解説します。
調査結果:中小企業における人事評価の実態
1. 人事評価の説明を受けていない社員が半数を超える

直近1年間に人事評価や給与・賞与の決定があった人のうち、「給与・賞与の決定について一切連絡がなかった」と答えた人が38.2%、「金額は知らされたが評価内容の説明はなかった」が17.6%で、評価の説明を十分に受けていない人は合計55.8%にのぼりました。一方、「評価結果の通知があり、面談で対話があった」と回答した人は26.4%にとどまります。
評価制度は存在していても、評価結果の理由を伝えたり、社員と対話するプロセスまで運用できていないのが多くの中小企業の現状です。
2. 評価基準を理解している社員は25.3%にとどまる

自社の人事評価基準について、「明確なルールがあり、内容も理解している」と答えた人は25.3%。一方で「なんとなくしか分かっていない」が33.1%、「ブラックボックスで全く把握できていない」が11.0%、「そもそも明確なルールがない」が23.9%でした。
つまり評価基準を理解していない、あるいはルール自体がないと感じている社員が68.0%にのぼります。
3. 評価基準が曖昧な社員の約8割がストレスを抱えている

評価基準が不明瞭と感じている人に仕事上の悩みを聞いたところ、上位は「成果を出しても正当に評価されずモチベーションが下がる」(25.8%)、「何を頑張れば評価されるか分からない」(25.5%)、「評価が上司の『好き嫌い』で決まっていると感じる」(25.2%)でした。
「特にない・分からない」は18.9%にとどまり、評価基準が曖昧な環境にある社員の約8割が、何らかの不満やストレスを抱えていることが分かります。
4. 評価基準を理解している社員ほど、評価に納得している

現在の評価への納得度を基準の理解度別に比較すると、「理解している」層では「納得している」(非常に+やや)が84.3%に達した一方、「なんとなく理解」層では67.4%、「ブラックボックス」層では24.5%、「ルールがない」層では17.3%まで下落しました。
評価基準の中身が社員にきちんと伝わっているかどうかが、納得度を決定的に左右しているという結果です。
なぜ評価が「ブラックボックス」になるのか
様々な企業の人事制度設計を手がけてきた経験から、中小企業で評価がブラックボックス化する要因は、次の3点に集約されます。
要因1:「求める人材」が定義されていない
人事制度の本来の役割は、単なる処遇決定のルールブックではなく、「その企業にとってどのような人材が必要か」というメッセージを届けるものです。事業戦略を実現するためにどんな能力・行動を発揮してほしいのかが曖昧なまま評価だけを行おうとすれば、必然的に「上司の好き嫌い」で決まっているように見える評価になります。
要因2:評価制度が複雑すぎて運用できない
有効に機能する人事制度の鉄則は「シンプルイズベスト」です。評価項目が多すぎる、評価手法が複雑すぎるといった制度は、理解も運用も難しく形骸化します。設計段階から運用シーンをイメージしながら作ることが大切です。
要因3:評価が「評価時期だけ」のイベントになっている
評価の納得感を左右する要因は、評価基準そのものよりも期中のコミュニケーションにあります。期末にだけ評価するスタイルでは、どれだけ精緻な基準を作っても納得感は生まれません。
理論から見る「透明性・公平性・納得性」の重要性
なぜ評価の「見える化」と対話がそこまで重要なのか。経営組織論では「組織的公正」という概念で整理されます。
- 分配的公正:評価結果そのものへの納得性
- 手続き的公正:評価プロセスへの公平性の認知
公正性に関する研究では、公正性の認知が職務満足・パフォーマンス・組織への愛着的コミットメントに影響を与えることが明らかになっています。つまり、評価の透明性・公平性・納得性を高めることは、社員の定着と生産性向上に直結する経営投資なのです。
本調査の「評価基準を理解している層の84.3%が納得している」という結果も、この理論と整合的です。
納得感のある人事評価を実現する3つの打ち手
打ち手1:「求める人材」を起点にシンプルな評価制度を設計する
評価制度を設計するときは、まず事業戦略を実現するために社員に発揮してほしい能力要素を、経営陣も交えて明確にします。これが評価基準の土台になります。
評価制度として弊社が推奨するのは、行動評価(コンピテンシー評価)と成果評価の組み合わせです。コンピテンシー評価は業績向上と人材育成の両方を同時に果たせる点で優れており、評価基準がそのまま育成指標として機能します。全等級共通の評価項目は5個程度に絞るのが理想です。
そして重要なのが、評価基準を全社員に開示すること。上司もメンバーも同じモノサシを見て評価・育成・成長を目指すからこそ、会社全体に公平性と納得感が生まれます。
打ち手2:行動評価と成果評価の両輪で「成長実感」を生む
なぜ2つの評価を組み合わせるのか。モチベーション理論の観点から説明すると、鍵は内発的動機づけにあり、内発的動機づけを高めるには自律性と有能感が重要です。
- 有能感:評価基準に基づいた肯定的フィードバックで得られる
- 自律性:ネクストアクションを自分で決めることで得られる
行動評価の基準を明示し、それに基づくフィードバックを行うことで、成果結果だけでなく能力や行動の発揮に対しても「成長実感」が得られ、長期的なモチベーションと定着につながります。
調査で「成果を出しても正当に評価されずやる気が下がる」(25.8%)が最多だったことは、成果だけを評価して行動プロセスへの承認が不足している組織の姿を映しています。
打ち手3:月次面談で「期中の対話」を制度化する
どれだけ精緻な制度を設計しても、運用が伴わなければ形骸化します。運用で重要なのは期中の観察・確認→指導・育成ですが、これは月次面談さえしっかり実施すれば大丈夫です。
月次面談では、成果目標と行動目標のそれぞれについて、メンバーにgood(よかった点)・more(改善点)・next actionを振り返ってもらい、上司はそれに対して承認・指導を行います。このとき重要なのは、
- goodには素直に肯定的フィードバックを行う(→有能感)
- next actionはメンバー自身に決めてもらう(→自律性)
これを毎月繰り返せば、期末の評価フィードバックは「もう言わなくてもわかっている」状態になります。毎月の面談自体が、すでに評価の積み重ねだからです。
調査で「評価結果の通知があり面談が行われた」割合が26.4%にとどまったことを踏まえると、月次面談を制度化するだけで、多くの企業が評価の納得度を飛躍的に高められる可能性があります。
まとめ
今回の調査で明らかになったのは、中小企業の多くで評価基準や運用プロセスが社員から見えづらく、それが意欲低下の温床になっている実態でした。一方で、評価基準の内容を理解している社員は高い納得感を示していました。人事評価の仕組みがあるかどうか以上に、その中身がきちんと社員に伝わっているかどうかが納得度を左右します。
納得感のある人事評価の本質は、次の3つです。
- 「求める人材」を起点に、シンプルで運用できる評価制度を設計する
- 行動評価と成果評価の両輪で、成果だけでなく成長プロセスも評価する
- 月次面談で期中の対話を制度化し、評価を「イベント」から「日常」に変える
人事制度は、評価結果を決定するための仕組みではなく、社員の成長を後押しし、望ましい行動を促すコミュニケーションの土台です。
調査の実施概要
調査機関 :自社調査
調査方法 :インターネット調査(株式会社ジャストシステム「Fastask」)
対象エリア:日本全国
対象者 :正社員数10~100名未満の中小企業に所属する20歳~59歳の正社員
調査期間 :2026年3月3日~10日
有効回答 :267名
※人事評価の現状を正確に把握するため、調査対象者は直近1年間に人事評価または給与・賞与の決定(現状維持を含む)の機会があった人に限定しています。
※本リリースでは、労働力調査および事前スクリーニング結果から推計した「正社員数10~100名未満の中小企業に所属する正社員」の性年代別構成比に合わせて、ウェイトバック集計を行っています。
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執筆者
FirstHR編集部
FirstHR編集部は、人事制度設計や評価運用をはじめとした人事領域に関する情報を発信しています。 実務に活かせる学びや考え方を大切にしながら、企業や人事担当者の皆さまに役立つコンテンツをお届けしています。

