昇給の決め方|評価・等級・人件費原資から設計する手順

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「昇給額が社長の感覚で決まっており社員に説明できない」「頑張っている社員にどう報いるべきか、明確な基準がない」——人事制度の運用において、多くの経営者や人事担当者がこうした「昇給の決め方」に頭を悩ませています。
実際、評価結果がどのように給与へ反映されるかという「反映ルール」が不明瞭なために、評価に納得していない社員は約4割(41.4%)存在するというデータもあります。昇給基準がブラックボックス化した状態では、社員の納得感や成長へのモチベーションを引き出すことは困難です。
本記事では、昇給の基本となる4つの「型」の選び方から、基本給と賞与の切り分けロジック、人件費原資から昇給率を逆算する試算手順、そして中途入社や昇格時の例外ルール設計まで「評価・等級・人件費原資」の3軸から昇給を決める実践的な手順を解説します。
目次
昇給の決め方には「型」がある:4つの方式と選び方
昇給の決め方は、大きく4つの型に整理できます。自社の等級制度と評価制度がどこまで整っているかによって、選ぶべき型が変わります。
本記事では、昇給のうち、主に「基本給を引き上げる仕組み」を取り上げます。賃金の引き上げには、基本給の昇給のほか、ベースアップや各種手当の改定などもありますが、ここでは評価や等級と連動して基本給を見直す方法を中心に解説します。
また、昇給には性質の異なる2種類があります。厚生労働省の定義では、ベースアップは「賃金表の改定により賃金水準を引き上げること」、定期昇給は「あらかじめ労働協約、就業規則等で定められた制度に従って行われる昇給」とされています(出典:厚生労働省「令和7年賃金引上げ等の実態に関する調査」)。
前者は賃金表そのものを書き換える全社的な引き上げ、後者は定められたルールに沿った個人ごとの昇給です。
ここで押さえておきたいのが、定期昇給は年功序列による自動昇給だけを指すのではないという点です。同じ調査の定義では、定期昇給には「年齢、勤続年数による自動昇給のほかに、能力、業績評価に基づく昇給」も含まれます。
実際、定期昇給制度がある企業は約8割(81.2%)を占めていますが、その内容は約3割(27.5%)が自動昇給であるのに対し、7割超(72.4%)は業績評価などによるものです。
少なくとも一定規模以上の企業では、年齢や勤続年数だけで自動的に昇給する仕組みよりも、能力や業績評価を反映する仕組みが主流になっています。
なお、昇給のルールは社内で決めれば足りるものではありません。労働基準法上、常時10人以上の労働者を使用する事業場では就業規則の作成が義務づけられており、「昇給に関する事項」は必ず記載しなければならない絶対的必要記載事項の一つとされています。
決め方を設計したら、就業規則や、必要に応じて賃金規程などの社内規程に反映するまでが一連の作業です。(出典:厚生労働省「確かめよう労働条件」)
評価点連動型・テーブル型・昇給率型・昇給額固定型の違いと特徴
昇給額の決め方は、次の4つの方式に整理できます。
方式 | 決め方 | 向いている企業 |
|---|---|---|
評価点連動型 | 評価の点数を段階に区切り、段階ごとに昇給額または昇給率を決める | 評価制度が整備され、点数で評価を出せる企業 |
テーブル型 | 等級と評価の組み合わせで、支給する基本給そのものを表から決める | 等級制度と給与レンジが整っている企業 |
昇給率型 | 現在の基本給に一定の率を掛けて昇給額を出す | 基本給の水準に個人差があり、率で調整したい企業 |
昇給額固定型 | 評価にかかわらず全員一律の額を昇給させる | 制度整備の初期段階で、まず仕組みを回したい企業 |
このうち、中小企業がまず目指しやすいのが評価点連動型です。等級ごとの給与レンジまで作り込まなくても、評価の点数さえ出せれば運用でき、「評価が高ければ昇給額も大きい」という関係が社員にとって分かりやすいためです。
一方で、昇給額固定型は設計が簡単な反面、成果や行動の差が処遇に反映しにくいため、評価制度を整えていくほど、「評価結果が処遇に反映されない」という不満につながりやすくなります。
制度を作り始めた初年度に限って使い、翌年以降は評価点連動型へ移行する、といった過渡的な位置づけで考えるのが現実的です。
絶対評価と相対評価で昇給の決め方はどう変わるか
同じ評価点連動型でも、評価の付け方が絶対評価か相対評価かによって、昇給の決まり方は大きく変わります。
絶対評価は、あらかじめ定めた基準を満たしているかどうかで評価を決める方法です。基準を満たした社員は全員が同じ評価になるため、社員から見ると「何をすれば昇給するか」が明確で、納得を得やすいという利点があります。
ただし、全員が高評価になった年は昇給の総額が膨らみ、当初想定していた人件費を上回る可能性があります。
相対評価は、「S評価は全体の10%まで」というように分布を先に決め、その枠内で評価を割り振る方法です。昇給の総額を先に固定できるため人件費の管理はしやすい一方、「基準は満たしたのに枠が埋まっていて評価が下がった」という状況が起こり、納得を得にくくなります。
報酬への反映という観点では、絶対評価を基本とする設計を推奨しています(参照:人事制度の設計→運用への論点)。評価の目的が社員の成長を促すことにある以上、他者との比較ではなく基準の達成度で処遇が決まるほうが、行動を変える動機につながるためです。
絶対評価によって昇給総額が想定以上に膨らむリスクは、昇給に使える原資の総額を先に決めておくことで補えます。
基本給と賞与への評価反映を分けて設計する
昇給の決め方で最も重要なのが、どの評価を昇給に反映するかという切り分けです。結論から言えば、行動評価は基本給の昇給に、成果評価は賞与に反映するという分離を推奨しています。
評価を分けて昇給に反映する理由:納得感と人件費管理の両立
行動評価とは、高い成果を生む働き方が再現性をもって発揮されているかを測る評価です。一度身についた良い行動は翌年以降も継続するため、毎月積み上がる基本給に反映するのが自然な対応です。
これに対して成果評価は、その期に出した結果を測るものであり、年度によって変動します。変動する成果を基本給に乗せてしまうと、翌年に成果が落ちても基本給を柔軟に見直しにくくなり、総人件費が硬直化します。
単年度で変動する成果は、その期ごとに支給額を調整できる賞与で報いるほうが適しています。
この切り分けが曖昧なままだと、社員の納得感は大きく損なわれます。FirstHRの調査では、評価に納得していない社員が約4割(41.4%)存在し、その背景として「評価の反映ルールが不明瞭」と感じる社員が37.1%を占めています(出典:FirstHR「人事評価の納得感調査」)。
どの評価が昇給に、どの評価が賞与に反映されるのかを設計段階で決め、社員に説明できる状態にしておくことが欠かせません。
評価点数から昇給額を算出する手順と計算フロー
評価点連動型で昇給額を決める場合、手順は次の3ステップです。
ステップ1:評価点数の段階グループ化
評価点数をそのまま給与に反映させると、1点単位の細かな違いで給与が変わり、社員への説明が極めて難しくなります。そのため、評価点数を、4~5段階の評価ランクにグループ化します。これにより、細かな誤差を排除し、誰もが納得しやすい大枠の基準を作ることができます。
ステップ2:段階ごとの昇給率・昇給額の割り当て
次に、各ランクに対して「いくら昇給させるか、あるいは何%昇給させるか」を割り当てます。設計の際は、標準的な評価である「B評価」の社員を基準点とします。
たとえば、標準評価の昇給率を「3.0%」と定めた場合、高評価のAは「4.0%」、Sは「5.0%」、低評価のCは「1.5%」、Dは「0%」といったように、基準から上下にバランスよく配分していくのが実務における鉄則です。
評価 | 評価点の目安 | 昇給率 | 基本給30万円の場合の昇給額 |
|---|---|---|---|
S | 90点以上 | 5.0% | 15,000円 |
A | 80〜89点 | 4.0% | 12,000円 |
B | 70〜79点 | 3.0% | 9,000円 |
C | 60〜69点 | 1.5% | 4,500円 |
D | 60点未満 | 0% | 0円 |
ステップ3:評価基準を社員に開示する
作った評価基準は社員に開示することが重要です。「この評価を取れば、昇給額はいくらになるのか」を事前に説明できる状態を作ることで、昇給に納得感が生まれます。
実際、約8割(79.2%)の社員が評価基準の明文化を求めており、基準とその反映ルールをオープンにすることは、社員の期待に応える最も直接的な手段です(出典:FirstHR「働き方の選択調査」)。
なお、昇給率は「昇給額÷昇給前の基本給×100」で計算します。基本給30万円の社員を9,000円昇給させた場合、昇給率は3.0%です。厚生労働省の調査で用いられる「1人平均賃金の改定率」も、改定額を改定前の賃金で割るという同じ考え方で算出されています。
こうした変換ルールの設計は、一度作れば毎年使える資産になります。ただし、自社の評価点の出方と昇給額の関係が適切かどうかは、実際に社員を当てはめて試算してみないと判断がつきません。
初めて設計する場合は、初回だけ専門家に伴走してもらって段階の区切りと昇給率を検証し、翌年以降は自社で見直せる状態にしておくと、初年度からの手戻りを防げます。
等級内の昇給ステップと等級間の昇格昇給の使い分け
昇給には、同じ等級の中で上がるものと、等級が上がることで生じるものの2種類があります。この2つを混同すると、昇給の意味が社員に伝わらなくなります。
等級内の昇給は、等級はそのままで、評価に応じて給与レンジの中を上がっていく昇給です。前項で解説した評価点連動型の昇給は、基本的にこちらに当たります。
各等級には給与の下限と上限があるため、上限に達した社員はそれ以上昇給しません。この状態は、次の等級に上がる時期に来ているというサインでもあります。
昇格昇給は、上位の等級に上がることで生じる昇給です。等級が変わると給与レンジそのものが変わるため、等級内の昇給とは別枠で昇給額を設計します。昇格は担う役割が一段上がることを意味するので、等級内の昇給よりも大きな幅を設けるのが一般的です。
この2つを分けて設計しておくと、「評価を高く取り続ければ等級内で昇給し、役割が上がれば昇格昇給でさらに上がる」という道筋を社員に示せます。なお昇格の判断は、昇給とは別に基準を設けます。行動評価の各項目を点数化し、満点の85%程度を昇格の目安とする運用が一つの型です(参照:人事制度の設計→運用への論点)。
人件費原資から逆算して昇給率を決める
個々の昇給額を決める前に、昇給に使える原資の総額を決めます。順序を逆にすると、個人別の昇給額を積み上げた結果、当初想定していた人件費予算を超える可能性があります。
昇給原資の確保と総人件費に対する予算の目安
昇給原資とは、その期の昇給に充てられる金額の総枠です。決め方は、自社の業績見通しから支払える額を算出し、それを世間相場と照らして妥当性を確認する、という二段構えになります。
世間相場を把握するうえで基準になるのが、公的な統計です。厚生労働省の調査によると、2025年に1人平均賃金を引き上げた企業は9割超(91.5%)に達し、改定額は13,601円、改定率は4.4%でした。ただし、この数値は企業規模によって差があります。
企業規模 | 1人平均賃金の改定額 | 改定率 |
|---|---|---|
5,000人以上 | 16,784円 | 5.1% |
1,000〜4,999人 | 15,859円 | 5.0% |
300〜999人 | 12,308円 | 4.0% |
100〜299人 | 10,264円 | 3.6% |
(出典:厚生労働省「令和7年賃金引上げ等の実態に関する調査」)
規模が小さいほど改定率が低くなる傾向が明確に出ています。なお、この調査の対象は常時100人以上の労働者を雇用する企業であり、それより小規模な企業は含まれていません。
日本商工会議所の2026年度調査では、従業員20人以下の小規模企業における2026年度の賃上げ率は3.38%、賃上げを実施・予定する企業は約6割(59.9%)にとどまっています(出典:日本商工会議所「中小企業の賃上げ・賃金改定に関する調査」)。
注意したいのは、これらの数値をそのまま自社の目標にしないことです。同じ調査では、小規模な企業の約3割(28.7%)が賃金改定率0%以下、つまり昇給できていないという結果も出ています。
また、賃上げを実施した企業のうち約6割(60.9%)は、業績の改善ではなく物価上昇や人材確保への対応として賃上げをしています。世間相場は「これを下回ると採用や定着で不利になりうる水準」として参照するものであり、自社の支払能力を超えて追随するものではありません。
原資から個人別昇給額を配分する仮シミュレーションの進め方
原資の枠と評価ごとの昇給率が決まったら、実際に社員を当てはめて総額を試算します。ここで枠に収まるかどうかを確認しないまま運用を始めると、支払段階になって原資が足りないことが判明します。
社員30名、平均基本給30万円で基本給の月額総額が900万円の企業が、昇給原資を基本給総額の3.0%にあたる27万円と設定した場合で考えます。評価分布の想定と、評価ごとに設計した昇給率を掛け合わせて試算します。
評価 | 想定人数 | 昇給額 | 小計 |
|---|---|---|---|
S(5.0%) | 3名 | 15,000円 | 45,000円 |
A(4.0%) | 6名 | 12,000円 | 72,000円 |
B(3.0%) | 15名 | 9,000円 | 135,000円 |
C(1.5%) | 5名 | 4,500円 | 22,500円 |
D(0%) | 1名 | 0円 | 0円 |
合計 | 30名 | — | 274,500円 |
試算額274,500円に対して原資は270,000円ですから、4,500円の超過です。この場合、C評価の昇給率を1.5%から1.3%に下げる、評価分布の想定を見直す、あるいは原資そのものを積み増すか、いずれかで調整します。数字を動かして着地させるこの作業が、昇給ルールの設計における最後の工程です。
この仮シミュレーションは、制度を導入する前に行います。実際に試算してみると、エース社員の昇給額が想定より小さい、特定の等級だけ昇給が集中するといった問題が見えてきます。
ただし、自社だけで客観的に評価を当てはめ、基準のズレを見つけるのは難易度が高い作業です。初回は制度設計に精通した専門家に伴走してもらい、試算と調整の型を学んだうえで、2回目以降の改定から内製化していく進め方がおすすめです。
ケース別の昇給ルール設計
昇給ルールは、全員が期初から期末まで在籍している前提だけでは運用できません。中途入社者や昇格者、降格者が出た期の扱いを、先に決めておく必要があります。
中途採用者・昇格者・降格者が発生した期の昇給の扱い方
中途入社者については、評価対象とする在籍期間の下限を決めます。自己評価の開始日までに在籍3か月以上を満たした社員から評価対象とする、という基準が一つの目安です(参照:人事制度の設計→運用への論点)。在籍期間が短い社員は、その期の昇給を見送るか、在籍期間に応じて按分します。入社時に決めた給与が市場水準を踏まえたものである以上、入社直後の昇給を急ぐ必要はありません。
期の途中で異動した社員は、異動前と異動後のそれぞれの職務で評価し、期間で按分して合算します。異動先の評価だけで判断すると、期の前半の貢献が処遇に反映されません。
昇格者については、等級内の昇給と昇格昇給が同じ期に重なったときの扱いを決めます。両方を満額支給すると昇給額が大きくなりすぎるため、昇格昇給を適用する場合は等級内の昇給を行わない、という整理が一般的です。
降格者の扱いは慎重に設計します。日頃の育成を適切に行っていれば、降格は本来頻繁に発生するものではありません。基準を設ける場合も、ペナルティとしてではなく「育成前提」のもとで極力発生させないセーフティーネットとして設計します。あわせて、制度改定によって既存社員の給与が下がる場合には、差額を一定期間補填する移行措置(1〜2年程度の調整給)を用意し、社員の生活を守りながら軟着陸させることが重要です。
こうした例外ルールは、実際に運用してみて初めて必要性に気づくものが少なくありません。制度の設計経験が社内にない状態では、想定すべきケースを網羅すること自体が難しいのが実情です。初回は専門家に伴走してもらってルールを固め、2回目以降の改定から内製化していく進め方であれば、自社に運用の型を確実に定着させ、事業変化にスピーディーに対応できる「自走力」を養うことができます。
まとめ
昇給の決め方を感覚から根拠のあるルールに変えるには、評価・等級・人件費原資の3つを順序立てて接続していく必要があります。本記事の要点を整理します。
- 昇給方式の選択
自社の等級制度と評価制度の整備状況に合わせ、評価点連動型・テーブル型・昇給率型・昇給額固定型の4方式から最適な型を選択する
- 評価の反映先の切り分け
再現性のある行動を測る行動評価は基本給の昇給に、単年度で変動する成果評価は賞与に反映し、人件費の硬直化を回避する
- 個人別昇給額の算出
評価点を4〜5段階のランクに区切って昇給額や昇給率を割り当て、その反映ルールを社員へ事前に開示する
- 原資からの逆算
個々の昇給額を積み上げる前に「昇給原資の総枠」を決定し、予算内に収まるかを事前に仮シミュレーションで検証する
- 例外ルールの事前設定
中途入社者の評価対象期間や期中異動の按分、昇格昇給との重複など、実務上の例外ルールを運用開始前に作成しておく
昇給の決め方は、精緻な計算式を完成させた時ではなく、現場の「評価スキル」が向上し、公平な運用が定着して、社員が「なぜこの額なのか」に納得した時に初めて機能します。まずは自社の支払能力と評価制度の現状に立ち返り、今の自社で運用できる昇給ルールのかたちを検討していきましょう。
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執筆者
FirstHR編集部
FirstHR編集部は、人事制度設計や評価運用をはじめとした人事領域に関する情報を発信しています。 実務に活かせる学びや考え方を大切にしながら、企業や人事担当者の皆さまに役立つコンテンツをお届けしています。

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